介護老人保健施設での浮腫療法
-緩和ケアでの取り組み-

【施設紹介】
事業所名:独立行政法人地域医療機能推進機構 徳山中央病院附属介護老人保健施設
所在地: 〒745-0822 山口県周南市孝田町1-1 TEL 0834-28-8686 FAX 0834-29-3916
メール:tokuyr22@flute.ocn.ne.jp
ホームページ:http://tokuyama.jcho.go.jp/rouken/
リハビリスタッフ:PT 3名 OT 2名(上級コース修了者 4名)


【浮腫療法を導入した経緯】
 当時の施設長より、「リンパ浮腫のケアへの対応を検討してほしい」という依頼があり同時に、下肢のリンパ浮腫を呈する通所リハビリテーションご利用者から「足のむくみをどうにかしてほしい」という訴えがあった。それらの言葉を受け、当時のリンパ浮腫ケアに関する環境を調査したところ、多くのケースで対応に苦慮している事、ケアを行う環境が整っていない現状を知る事となった。
 医療的な措置も必要であるが、リハビリ専門職としてリンパ浮腫により生じた動作への影響や生活状況への介入の必要性を感じ日本浮腫療法協会の主催する研修会に参加させて頂いた事が始まりである。
【現 状】
併設病院や圏域の居宅支援事業所より紹介があり通所・訪問リハ、入所、ショートステイ、緩和ケア病棟での対応(※時間外)を行っている。現在は、訪問リハでガンを患う方のターミナルケアへの介入、リンパ浮腫による動作・生活制限への介入、緩和ケア病棟スタッフとの研修を通してリンパ浮腫ケアの環境整備を図っている。
  
     <症例報告会>

【展 望】
 併設病院からの依頼に際して、介護認定を受けていないケースや介護を必要としないケースがありご利用に至らない場合もある。併設病院と当施設間の環境を整備し受容と供給のバランスを整える必要がある。浮腫療法を必要とする方々の身体・精神面だけでなく生活の中にも介入していき、利用しやすい施設・環境作りが今後の役割ではないかと考える。

【感 想】
 日本浮腫療法協会の研修会を受講し臨床現場で活用する事で基本手技の質の高さを認識できた。リンパ浮腫にとどまらず、様々な疾患や状態に適応できる事を実感した。対象者の即時的な変化や生活状況が改善されていく過程を見て、リンパ浮腫の背景には多くの課題がある事が認識できた。浮腫療法を通して多くの対象者と関わる中で、基礎研修から上級コースまでを受講した事はセラピストとしての新たな視点が加わったのではないかと実感している。

【症例紹介】※当施設で取り組んでいる内容を以下に紹介する。

〔症 例①〕-併設病院と連携を図り集中的な浮腫療法を実施-

 80歳代女性 子宮体癌(X-22年) 要支援2 方法:下肢、体幹への浮腫療法(上級手技)、運動療法、
 薬物療法 リンパ浮腫重症度分類 Stage:Ⅱ(晩期)


(目 的)
 数年前より左下肢のリンパ浮腫が出現し当施設へ紹介される。週2回のご利用で浮腫の管理を継続してきた。しかし、リンパ管炎を起こした事で浮腫の増加が認められた。
 リンパ管炎は完治したが浮腫は増加した状態であり、集中的な浮腫療法が求められた。併設病院へ入院して頂き、浮腫療法や薬物療法を介入方針とした。
表1 平成27年
入院時(12.4) 退院時(12.16)
部 位
大腿部(中部) 51.0Cm 49.0Cm 50.0Cm 48.5Cm
膝直上 41.0Cm 38.5Cm 40.5Cm 38.0Cm
膝下(10cm) 41.5Cm 36.5Cm 38.0Cm 34.5Cm
足関節 24.0Cm 28.5Cm 21.0Cm 21.5Cm
体重 62.4kg 61.4kg
(結 果)
 入院されてから、午前・午後に分けて浮腫療法を実施。筋ポンプ作用を促す目的に病棟内を散歩する事や病室でできる簡単な運動を提供した。介入後3日経過した頃より、皮膚の軟化が認められ2週間の入院期間で下肢周径の減少(表-1)、リンパ浮腫重症度分類においてもStage:Ⅰへ変化した。
(考 察)
 浮腫の軽減が図られた要因として、集中的な介入により浮腫療法と運動を併用できた事でリンパ液の還流が促進され皮膚状態も改善された。症例の浮腫の軽減が図られたことで症例自身も満足され
主治医も集中的な介入に効果が高い事を実感されていた。今回の対応を継続できる環境を整備する事が
リンパ浮腫ケアの一助になるのではないかと考える。

〔症 例②〕-呼吸困難を訴えられる方への介入-

 80代女性 要介護1 膀胱がん(X-5年 全摘術 ウロストーマ造設)
 右転移性肺がん(X-4年 右肺上葉切除)
 H27年12月末より冬季の間の体調管理目的にて入所となる。ご本人より在宅生活中は下肢の浮腫が出現していたとの報告あり。自宅内を移動しただけで息切れあり。現在まで17回の介入あり。

(目 的)
 入所当初、下肢の浮腫は著明ではないが、踝周囲に若干認められた。また息切れがあるとのことで、動作において呼吸が楽に行えるよう、両下肢・体幹後面に対してドレナージを施行(ただしイレウスの既往があるため、腹部への施行を避けた)。その後、下肢の関節運動を実施した。またリハビリ以外でも積極的に棟内を散歩するよう促した。
表2

訓練前 訓練後
Spo2 93% 96%
呼吸数 22回 18回

(結 果)
 在宅生活と施設生活で活動量は大きく変わらないとの事であるが、現在までに下肢浮腫は認められず、ご本人からも「足が腫れんね」と言われている。またドレナージ後は歩行での移動も「足が軽い」と言われ、「ぜえぜえ言わなくなったじゃろ」と変化を認識している。

(考 察)
 下肢のドレナージを継続的に施行することで、在宅生活中と同量の活動量にも関わらず、踝周囲の浮腫は消失し、下肢全体的にも出現していないと考えられる。また、体幹後面に施行することで緊張が緩和されリラクゼーション効果が表れたと考えられる。そのため、1回換気量が増加したことで呼吸数が減少し、SPO2も上昇したと考える(表-2)。対象者は在宅復帰の意向があり、現在も入所生活を送られながら趣味のカラオケ教室にも行かれている。今後も楽しみを継続することでQOL向上のための支援をしていく。

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